2025/01/28 歌謡曲が好き ラジオが好き

FMラジオと「エアチェック」


目次
  1. 曲がフルコーラスでかかるFM放送
  2. ひるの歌謡曲
  3. 夕べのひととき
  4. エアチェック文化は残らない?

子供の頃、レコードを買えるだけのお小遣いを貰っていなかったし、そもそも親がめったに音楽を聴くような家庭でも無かったのでレコードプレーヤは壊れていて、これまたお小遣いを貯めて自分で修理するまでは裕福な友人宅でレコードを聴かせて貰うくらいが関の山という幼少時代でありました。とはいえテレビの歌番組は豊富で「動く」歌手の皆さんは記憶にあります。

今50代より上の方なら多分やっと買って貰ったラジカセをテレビのスピーカー前に置いてテレビの音声を録音したという記憶のある方も多いでしょう。親の「ご飯食べな!」とかいう声や食器洗いなどの生活音が普通に録音されているテープはきっと家族の記録として貴重でしょうが、当時はテープが高くて何度も上書き録音されるのが常でもあります。

曲がフルコーラスでかかるFM放送


FMラジオについては現在の放送と当時の放送にはずいぶん差があることを理解しておかなければなりません。DJが曲の合間だけでなく曲の間すらトークを行う現在のFM放送と比較して、1980年代となりますとまだまだ「エアチェック」ができるように配慮された文化であります。エアチェックって言葉ももう懐かしいわけですが「OnAir」放送されたものを録音して「チェック」するという放送局の用語から来ているようです。放送の聞き手である私たちも「放送されたものを録音して後で聞く」(あくまでも放送の録音は「個人」としての聴取に認められるという意味で)チェックしているって意味であると個人的には認識しています。

当時のFM放送は曲をイントロも含めてフルコーラスで演奏する、前後の曲紹介などのしゃべりが曲にかぶらないということを行っていたことで、楽曲を録音して何度も聞くことができるという環境があったわけです。お小遣いに制約のある我が家でもカセットテープに録音すれば当時のベストテン的な楽曲はいつでも聴くことができたということになります。

とはいえFM局はヒットチャートばかりを流しているわけではありません。NHK-FMではクラシック楽曲や浪曲(純邦楽)などのかなり大人向けコンテンツが多かった印象です。1984年頃の平日番組はこんな感じだったんじゃないでしょうか。
06:00放送開始
・バロック音楽のたのしみ
・朝のポップス
・朝の名曲
・音楽のすべて
・朗読
・サウンド・オブ・ポップス(再)
・ひるの歌謡曲
・きょうの邦楽
・軽音楽をあなたに
・(地域別)ローカル番組
・サウンド・オブ・ポップス
・クラシック・アワー
・サウンドストリート
・クロスオーバーイレブン
0:00放送終了
この当時NHK-FMは24時間放送を行っておらず、クロスオーバーイレブンが終わると国歌を演奏して停波しています。

「子供」だったワタシが「FMは曲をフルコーラスでかけるらしい」とFMに合わせて出てきたのが「軽音楽をあなたに」ですから、最終期松原みきさんもDJをされていたとはいえ、当時の子供が喜びそうな楽曲ではなかったでしょうね。いえいえ、ワタシはジャンル問わず音楽がかかっているのは楽しかったんだけど、主目的は「聖子ちゃんのニューシングルをフルに聞きたい」だったわけですから。

1982年に北海道でも民放FM局が開局、土曜日の昼に放送していました宮川泰さんがDJをされていた「コーセー歌謡ベストテン」あたりは全曲かからないし、うまいこと曲が短くなっていたりするんですがよく聞いていました。FM北海道のローカル番組では「FM電リク テレホンジャック7」とか「コンピューターベストテン」なんてランキング番組を重宝するようになります。しかし、地方に引っ越してしまい民放FM局が聞きにくい環境になってしまったことで、NHK-FMくらいしか「楽曲を仕入れる」手段を失ってしまったわけです。

ひるの歌謡曲


さて、NHK-FMに戻りまして、確か学校が長期休みの時に昼間にNHK-FMを聞いたら、あれ、小泉今日子さんが流れている!!!このひるの歌謡曲、週単位でその歌手の歌をかける番組。そして45分の番組内で、「オープニング-曲5曲程度-その歌手についての解説-曲5曲程度-エンディング」という構成になっています。そしてナレーションと曲はかぶりません。そう、46分のテープにA面5曲、解説などのナレーションの間にひっくり返してB面5曲という「その歌手のベスト盤」が手軽に録音できるという恐ろしく「使える」番組だったのです。

もちろん「歌謡曲」ですから演歌の週もあればフォークの週もあるわけですが、夏休みなどの時期はアイドル楽曲を特集することも多かったように思います。そして、曲目はFM雑誌(FMステーションやFMレコパルなど)にきっちり2週間分掲載がありますので、事前に準備して、場合によっては90分テープにタイマー録音して聞けるわけです。

このひるの歌謡曲、時にはアルバム丸々1枚をA、B面かけることもありますし、今思えば現在のサブスクリプションに繋がるようなものでもあったのでしょう。なにより曲がある程度一気にかかるというのはNHKならではともいえるわけで、録音はかどったなぁ。

夕べのひととき


NHK-FMの18時台はローカル放送でした。FM雑誌には東京局の「夕べの広場」が掲載されていましたが、多くの地域は「夕べのひととき」だったんじゃないでしょうか。このローカル放送、全国的に各地域でオリジナルな内容が放送されており、北海道でも札幌だけでなく函館・旭川・北見・釧路・帯広・室蘭の各局で制作されていました。そして、ほとんど「今の」ヒット曲がかからないNHK-FMにあってヒット曲を録音することができる貴重な機会でありました。
まだまだ民放FM局の聴ける範囲が狭い中で、中高生のリクエストに応え、各局を歴任し(結果的に)左遷のような形で地方局にやってきたアナウンサー氏の全国枠では絶対しないような話なんかは面白かった。機械のように定型でしゃべるアナウンサーにももちろん人格があり普通の「人」だったことを感じさせますし、なにしろNHK-FMとしての体は保っていますから曲は基本的にフルコーラスです。

同様の番組は土曜日の午後にもあり全国的には「FMリクエストアワー」旭川局は「ハローサタデー旭川」としていましたですね。こちらも民放ばりの緩い感じの番組ではありましたが、基本的に楽曲はフルコーラスでした。

この地域放送、1990年代にはブロック単位に再編され、今や地域局は一部のニュースしか独自放送しない形になりました。まぁ、自分たちも大人になって好きな楽曲はCDで買えるようになったというのもあります。

エアチェック文化は残らない?


既にテレビ番組の録画はDRM設定により保存回数や再生機器に制約があります。将来に渡って再生できるかは微妙なところでしょう。地上波ラジオは民放AM放送が北海道など一部を除いて2028年秋に原則終了する方向で進んでいます。NHKも第二放送を2025年度で閉局することになっており、将来的には「AMラジオ」は無くなっていく方向と思われます。
FM放送に関しても今の局数が維持できるかは2000年に開局し2020年に廃止となった新潟のFM PORTやもう少し小規模でしたが2014年開局で2020年に閉局した名古屋のRadio NEOの様な例は今後も出てくるとも思われます。なにしろ人口減よりも急激に「生産年齢人口」が減っていきますから、特に民放ラジオ局が今後もCMを維持できるとは思えない状況になっています。

その中で、有料で全国のラジオを楽しめるradikoはあれど、録音を行うことはどんどん難しくなっていくというのが現状でもあります。災害時を考えると空間波で他地域のラジオも聞くことが可能な大出力AMラジオは必要な気もしますが、実際にはそれを維持するだけの予算も人員も維持できないというのが将来確約されているというのもありましょう。

県域の大きなラジオ局の廃止こそFM PORT以降出てはいませんが、コミュニティFM局の廃止は少なくなく、これは災害時の情報入手手段として構築された意味が変わってきていることもあるのでしょう。

そして「音楽」を録音するという意味ではサブスク配信が一定充実していること、スタジオライブ的なものも今はYoutubeなどネットで行うことが主流となればラジオができることは少なくなっているような状況でもあります。当然「ひるの歌謡曲」もすでにありません。

ラジオという、公の放送だけど個人に語られている、そんな文化を楽しめるのもそう長くないのかもしれません。




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