珊瑚の香り、青い風 いま、聖子の季節
松田聖子さんが「裸足の季節」でデビューしたのは1980年4月1日。このアルバム「SQUALL」が発売されたのがこの年の8月1日です。この項のタイトルは、帯につけられた文言。8月に入ってからという夏の後半に「青空」「青い海」をイメージしたさわやかな曲達。デビュー前から準備されていたと思われる楽曲、そして、なんとなくですが、この順番でレコーディングしたのかな?と思わせる、慣れていない、戸惑った感じから、どんどんと自身を持って高音域を歌い上げる曲まで、どこかアルバムって、シングルのボツ曲が並ぶと言われる中、どの曲でも勝負できるのではないか?そんな印象を持つアルバムです。
当時は12インチのレコード、またはカセットテープでの発売、そして子供にはなかなか買えない2,700円という価格、それでも、たまにラジオでかかったり、近所のやんちゃなお兄ちゃんのミニコンポで「オレこの曲嫌いなんだよ」と飛ばされたのを恨めしく思いながらも(ポマード塗ってタバコ咥える兄ちゃんに言えるような環境ではない)聞いたのをよく憶えています。
レコード、カセットで聞くのですから、A面、B面があります。このアルバムをA面から聞いていきましょう。
1・~南太平洋~ サンバの香り
作詞:三浦徳子
作曲:小田裕一郎
編曲:信田かずお
波の音から始まる、ああ、聖子ちゃんと南の島に来たんだな~と思わせてくれるオープニング。
後に松岡直也さんの日曜島へというアルバムで飛行機が着陸する音から始まる最初の曲で、ふとこの曲を思い出したんですよね。
ちなみにマツケンサンバⅡで散々言われる「サンバでボンゴは使用されない」ですが、本曲でもサンバに浮かれてボンゴのリズムに乗る表現がありますので、当時あまりそれが疑問に思われなかったのかしら?(なお、少数サンバでボンゴを使う事もあるとの話を聞いたことがある)
あと、南太平洋ってのも不思議。
2・ブルーエンジェル
作詞:三浦徳子
作曲:小田裕一郎
編曲:信田かずお
ブルーエンジェル 松田 聖子1980/8/1
3分ほどの短い曲なんですが、いやぁ~あざといです!その後の松田聖子さんを知ってるからこそクるものがある、デビューアルバムの2曲目で友人の彼氏を略奪しようとするあざとい聖子さんをさわやかに感じます。しかも、これ、旅行先にはその友人もいるわけじゃないですか。友達の彼氏とキスした後、そりゃ友達さんに「友情」と言ったってねぇ(笑)「臆病」ってそこ天秤?って感じがなんともいえません。私は好きなシチュエーションですよ♪
マリーンスノーに対してエンゼルフィッシュは淡水魚ですから、最初から危険な、ありえないってところをもしかして意識したかしなのかもしれないなぁと思うと、最初っから深いんですね。
3・SQUALL
作詞:三浦徳子
作曲:小田裕一郎
編曲:大村雅朗
SQUALL(SEIKO STORY〜80's HITS COLLECTION〜) 松田 聖子1980/8/1
アルバムタイトル曲になります。このスコール、とかく洪水はおきるは稲妻は光る激しさですが、これは心の中の状況なのかもしれません。そして短時間に激しく燃え上がっていく様も表しているように思えます。そしてスコールなので、それは長続きせず、あれ?今のなんだっけ?ってくらいに何事も無かったかのように元にもどるのかも。旅行先で楽しかった想い出は、家に帰ってみたら、あの彼、そんなに格好良かったっけ?になっちゃうような。
4・トロピカル・ヒーロー
作詞:三浦徳子
作曲:小田裕一郎
編曲:松井忠重
トロピカル・ヒーロー 松田 聖子1980/8/1
ソルティドッグですよ。幼少の頃わからなかったワード。ウォッカとグレープフルーツジュースのカクテルになります。グラスの周りに塩をまぶすのでソルティ、なければブルドッグになりましょう。飲みやすいので気がついたらえらく酔いそうではありますが、それを1人で波に乗る彼に持っていくか?それを考えただけで喉が渇いちゃうのが若くて良いですね。大人だったらそのソルティドッグを煽って気合い入れて持っていくところでしょう。
ただ、若い中でも「サーフボードのそばには素敵な女が待ってるかしら」おっ「女」(もちろん「ひと」と読ませる)ですよ。もうバチバチじゃないですか。女性は若くてもレディだそうで、恋のバチバチは場外乱闘なのですね。
5・裸足の季節
作詞:三浦徳子
作曲:小田裕一郎
編曲:信田かずお
裸足の季節 松田 聖子1980/4/1
1980年4月1日のデビューシングルは「エクボの~」で全て持っていかれちゃうような、本当にこの声は無二のもので、それが長く続かない事がわかっている今聞くと、この声に惚れ込んだ制作陣の気持ちが少しはわかるような気がします。
約20分のA面です。この当時はLPレコードを裏返す、カセットを裏返すという曲が途切れるタイムラグがあります。1枚のアルバムに対して2回の「始めと終わり」があるのですね。だからこそ、どの曲をどの位置に入れるのがいいのか?というのはよく考え練られていると思います。シングル曲の「裸足の季節」をA面最後に持ってきて「覚醒」させる感じがあり、B面への期待感が膨らんでいきます。
6・ロックンロール・デイドリーム
作詞:三浦徳子
作曲:小田裕一郎
編曲:大村雅朗
ロックンロール・デイドリーム 松田 聖子1980/8/1
B面でいきなり大きく変わってロックです。松田聖子さんのイメージ的にあまり激しい曲は多くは無いのですが、アルバムの振り幅はものすごく大きく感じます。きっと松田聖子さんがフゥ!と叫ぶ曲はこれだけじゃないかなぁ。声が細いとこういう感じの曲はなよなよ~って感じになるんですが、どうしてなかなか聖子さんこの曲での声は太くて、ちゃんとロックです。
7・クールギャング
作詞:三浦徳子
作曲:小田裕一郎
編曲:松井忠重
クールギャング 松田 聖子1980/8/1
ポール・ニューマンが出てきました。この当時ですら55歳だったポール・ニューマン氏を気取った「クールなセクシーボーイ」(1番)そして「クールなセクシー・ギャング」(2番)若く見えるオッサンなのか、オッサン顔の少年なのかはともかく、間違いなく恰好良い方なのでしょう。そして「お先に行くわ」と店を出るちょっと大人なブルージーじゃないですか。
8・青い珊瑚礁
作詞:三浦徳子
作曲:小田裕一郎
編曲:大村雅朗
青い珊瑚礁 松田 聖子1980/7/1
そして、がらっと変えた、起承転結の「転」的なのが松田聖子さんを世に知らしめたセカンドシングルの「青い珊瑚礁」です。4月のデビュー、7月のセカンドシングル、8月のファーストアルバム、息つく暇の無かったであろう上京しての1年で、紅白出場まで勝ち取るんですからわからない。これぞドリームです。
1980年はやっぱり世界が大きく変わったと思うんですね。慎ましく~なんて女性像は70年代に置いてきて、この曲の「あなたが好き!」という表裏がない、ウソがない、そこには恥じらいよりも笑顔が弾ける形で、誰に遠慮が要るのかという明るさを感じます。
9・九月の夕暮れ
作詞:三浦徳子
作曲:小田裕一郎
編曲:信田かずお
九月の夕暮れ 松田 聖子1980/8/1
北海道の片田舎に住んでいた私にとって、あまり違和感が無かったんですが、今思えば9月の段階で「Coming soon winter」はちょっと気が早すぎます。本州なら暑さ寒さも彼岸までですから9月はまだ残暑ですし、北海道だって大雪山の初冠雪がお彼岸時期ですので、平野部ではそこまでの印象はありません。9曲目だから9月だったのか、実際は10月の夕暮れだったんじゃないかしら?
とはいえ、落ち着いたこの曲、ギターが印象的で、しかも多分ご自身の声を多重録音したハモりを見せてくれています。女心と秋の空なんて昔聞いた言葉を思い出すのです。
10・潮騒
作詞:三浦徳子
作曲:小田裕一郎
編曲:大村雅朗
潮騒 松田 聖子1980/8/1
今聞くと、今でも通用するというか、コンサートならこの曲をどのタイミングで使うか?みたいなことを考えたくなるような。この先40年松田聖子さんが現役のシンガーとして活躍していることを、当時考えて作ったとは思えないのですが、もしかすると、そのような、長い活動をする時に必要な曲として作られたのかもしれないですね。
大人になっても歌える、低めで歌詞の内容も、今の聖子さんはどう唄うんだろう?って思うような、そんな曲です。
「Love is everything 愛は幻 Everything is you あなただけ Dreaming tonight こんな夜は 抱きしめて」
大人の曲だよ。大人びた曲だよ。
現在配信サービスで配信されているこのアルバムは2012年にBlu-specCDとして(ブルーレイディスクの仕組みで高音質化したCD)発売されたものと思います。「裸足の季節」と「青い珊瑚礁」のオリジナルカラオケが追加収録されているものです。もし、お聞きになる時には、5曲目と6曲目以降を、少し開けて、新たな気持ちで聞いてみて欲しいなと思います。
そして、今、この音源を誰にも邪魔されず高音質なイヤホンで聴くことができることを本当に幸せに思ったりもします。この時代、アイドルのアルバムには、正直粗悪かなと思われるようなやっつけ楽曲もなかったわけではありませんが、松田聖子さんは本当にレコード会社も、周りの大人、関係者が大切に育てようと思ったんだろうなというのが、こういうアルバムにも見え隠れしています。
デビューアルバムとしては非常に手の込んだ(多分時間の少ない中)最善を尽くしたように見えるアルバムです。是非何かの機会にお聞きくださいませ。